「身体に合う」の嘘。フルオーダー信仰が崩壊し、既製品最強が生まれる理由

「身体に合う」という言葉。オーダースーツの文脈でよく使われますよね?

でもこの言葉、恐ろしいことに一流のビスポークテーラーが使う時と、大半の人が使う時とで、全く意味が異なるんです。

そして、ココに「仮縫いを入れたフルオーダーと聞いたのにしょぼいスーツ」、「百貨店オーダーなのに満足できないスーツ」、「リングヂャケットのような既製品なのに着心地が良いスーツ」等の理由が隠されています。

言葉のまやかしに踊らされて、高額を払わないように、今回はこの問題に迫ってみようと思います。

こんな間違った考え、してませんか?

まず、「身体に合う」と言われた際に思い浮かべるのはサイズ感ですよね。

たとえばですが、以下3条件が揃えば「身体に合う」スーツが仕上がると思っていませんか?

  1. 身体の採寸をすべての箇所測って、その採寸結果が1ミリのズレもない
  2. その採寸結果にぴったり合わせて、仕立てられる
  3. 着る人の好みに合わせて数ミクロン単位でサイズ補正できる

さらにそれが「丁寧に縫われてがいるか」が縫製技術だと思っていませんか?

・・・残念ながら、違うんです。

そして、これが勘違いフルオーダー信仰や、勘違い仮縫い信仰を生む元凶です。

9割の方は理解されていると思うのですが、このミクロンという表現は、「仮に完膚なきまでに採寸できていた場合」という条件設定のためのもので、本当にミクロン単位で測ることはあり得ません。わざわざ書くのも幼稚ですし、読者の皆様にも非常に申し訳ないのですが、そういう所を理由に揚げ足を取る方もいらっしゃるようなので、念のため・・・

要素分解してみましょう

スーツやジャケットのレビュー時にも少し触れていますが、仕上がりの良さは以下の構成要素の掛け合わせで決まります。


基本構造としては、「フィッティング」「生地」「仕立て」となっています。

そして多くの方は、もう少し深堀りしてこのような構成要素で捉えています。

その結果何が起こるか?

「仮縫いを入れれば身体に合う」と思ってしまったり、「生地がゼニアなら最高のスーツ」と単純化して勘違いしてしまうわけです。

さらに、もう少し詳しい方でも勘違いしがちなのが次の「仕立て」の部分。

縫製工場がいかに丁寧に縫えるかが重要な要素だと思ってしまいがちで、「丁寧な縫いで有名な老舗の縫製工場を使っていれば最高」と勘違いしてしまうわけです。

「仕立て」については、もう少しだけ細かく要素分解して考えてみる必要があります。


仕立てを一段掘り下げることで、「型紙」「縫製」と分解できましたが、この単位で見てもまだダメです。

「仮縫い付きフルオーダーと謳っている店で、一流の型紙を用いて、国内工場が縫製したスーツを買えば良い物ができる!」という、一見すると正しいような勘違いが生まれてしまいます。

そこで、さらに「縫製」を細かく分けて、「基本の縫製」と「着心地向上の技術」で見る必要があり、この「着心地向上の技術」を見抜けるかが最大のポイントです。

これだけだと、「なんとなく、分かったような分からないような・・・」ですよね。

ビスポークの壁

構成要素とボトルネックを明らかにした上で、極端な事例を用いて解説していきます。

冒頭で触れた「身体に合う」の意味をハッキリさせるためにも、「生地」は最高級のもの、「採寸」は完璧にできていることを前提にしますね。


あなたの身体の全パーツが見事に採寸され、好みに合わせて調整した寸法が測られたとしましょう。

そして、型紙を引くのは、たとえば鈴木健次郎氏や水落卓宏氏のような本流ビスポークの方だと仮定します。ここまでは現実ではなかなか起こり得ないぐらい完璧ですね!

そして完全にあなたの身体に合う型紙が、前述の仮縫い付きのフルオーダーを謡っているマシンメイドの工場に引き渡されました。何が起こるでしょう?

・・・作れないんです。

型紙が難しすぎてしまうんですね。

基本的なスーツの形にはできるものの、縫い代の処理やハ刺し、入念なアイロンワーク、いせ込み等の「着心地向上の技術」が無いんです。(※まあそもそもこのレベルの型紙になってくると手縫いではないと対応できません)

そのため、こうした一流テーラーの型紙を使って工場が縫製する場合、何が起きているかというと、型紙が簡略化されているんです。

これがすなわち、仮縫い付きのフルオーダーコーナーと謳っている、実際には仮縫いを付けているイージーオーダーに過ぎないテーラーのスーツが、ビスポークの仕上がりと全く異なる理由です。

こうしたマズい事態の背景には、「フルオーダー」の定義が曖昧で、明確に存在しないことがあります。恐ろしいですね。

フルオーダーだから着心地の良いものができる!という信頼性を無残にも崩壊させてしまっています。

以上が60万以上かかるビスポークと、15~30万程度かかる疑似フルオーダー(エセとも言えないので)の違いです。

メジャーメイド間での違い

さて、次は私でもオーダーできるようなメジャーメイドでレベルの高いテーラー、たとえばゼルビーノやbatak(ハウスカット)を例に考えてみましょう。

今回も生地とフィッティングはクリアしていることを前提にした極端な例で見ていきます。

ビスポークではないため、型紙は先ほどよりは簡単になりますが、それでもゼルビーノやbatakのメジャーメイドは、高い着心地を実現しているため、当然ハ刺しやいせ込み等は高い技術が求められます。

・・・そんなの大半の工場では請け負えないんです。これは丁寧に縫えるかどうかなんて話ではないんです。

そのため、彼らが発注する工場は超一流のところが選定されるわけです。

ここからが恐ろしいのですが、俺評価。で私が「不要」と評価している大半のテーラーはどうなっているか?

型紙は簡略化され、「着心地向上の技術」がないところが対応しているわけです。

たしかに、縫製は丁寧かもしれません。アジアの工場よりも頑丈に仕上がることも多いかと思います。
・・・が、着心地を求めるならば、そんなことは矮小な話なんです。

どうでしょう。大半のテーラーでは、何度オーダーして採寸精度を上げようが、仮縫いを入れようが、たいした物が出来上がらないのは当然だというのが、お分かりいただけたと思います。

既製品最強が生まれる理由

最後にリングヂャケットのような既製品でも着心地が良いと言われるスーツが生まれる理由ですが、ここまでくれば、もうスッと理解ができるでしょう。


「生地」は当然良いものを選んでいるでしょう。

「型紙」は採寸結果がないので、飽くまで標準体型をベースに作られているでしょうが、それを支える「縫製」には、「着心地向上の技術」が詰まっています。

要するに問題はフィッティングだけになっているんです。

当然、既製品は標準体型がベースになっているため、大半の人には完璧には合わない一方で、大半の人には概ね合うんです。

概ね身体に合っていて「着心地向上の技術」が詰まったスーツを着ると、大半のテーラーより感動できることでしょう。

これが「既製品最強」が生まれる理由です。

後悔してほしくないから

恐ろしい世界を垣間見せた気もしますが、これが「身体に合う」の嘘です。

本来、「身体に合う」とは着心地の良さを体感できるに足る技術があって初めて為せる技なんです。

普通にしているとサイズが合っているだけのことを「身体に合う」と言ってしまいますよね?

一連のご説明を通じて、一流のビスポークやメジャーメイドが使う「身体に合う」という言葉と、半端物のテーラーや一般消費者が使う「身体に合う」が全然意味の違うものだということも分かったと思います。

あなた「これってオーダーだから身体に合った物ができますよね?」
テーラー「はい、もちろんです」

このやりとりの恐ろしさも、もう理解いただけると思います。半端なテーラーの言う「身体に合う」は正直信頼できません。

その意味でテーラー選定はものすごく重要になるのですが、ビスポークはともかく、メジャーメイドに関しては、前述の工場の技術力なんてなかなか分かるものでもありません。

こうした課題感があって、Mezzoforte Loungeで始めたのが、俺評価。です。

各テーラーの紹介記事で評価を実施していますので、ぜひ参考にしてみてください!

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