オーダーを100倍楽しむ!王様の仕立て屋に学ぶ本場のナポリ仕立て


オーダースーツが注目されてきたからこそ知っておきたいのが、本場イタリアの仕立て。

中でもナポリの仕立てはイギリスのサヴィル・ロウと双璧をなしています。

そんなナポリ仕立てについて、コミカルなストーリーと共に知ることができるマンガが、王様の仕立て屋です。

ナポリの伝説の職人の弟子である日本人、織部悠が様々な客の人生に触れながら、その人の身体はもちろん人生に合ったスーツを仕立てていく物語です。

ただのスーツ作りの物語かと思いきや、イタリアを始めとするヨーロッパの文化や歴史等に触れられており、ギャグ要素もふんだんに取り入れられている為、飽きずに読み進められます!

今回は、そんな王様の仕立て屋から学べる本場ナポリの仕立てをご紹介します!

目次

そもそもイタリアのスーツって?


なぜあの人はカッコいいのか?差がつくスーツ・ジャケットのポイントでもご紹介しましたが、スーツの基本の型は大きく分けるとイギリス・イタリア・アメリカの3つに分かれます。

その中でもイタリアのスーツは、堅苦しさがなく、カラっとした気候で晴天の多いイタリアらしい着心地の良さを求めた作りになっています。

ただし、同じイタリアの中でも北部ミラノは、イギリスのようなカッチリとしたスタイルに近いものになっています。

これには理由があって、北イタリアのスーツは、イギリスやフランスのように貴族のお抱えの職人によって仕立てられ、その歴史を刻んできました。

職人は仕える貴族が求められるスーツを作り、個性を打ち出せる立場になかったわけですね。

一方、ポンペイ遺跡が発掘されて以降、北イタリアのお金持ちの避寒地となった南イタリアのナポリはというと、その暖かい気候によって全く異なる歴史を歩みます。

これまで芯地と型紙を用いてしっかりとしたスーツを作る北イタリアの職人にとって、暖かい南イタリアの気候に合わせたスーツを作るのは困難だったんですね。

そうなると手先が器用な南イタリア現地の職人たちに発注されるわけですが、南イタリアの職人には、これまでの北イタリア的ないしはイギリス的なスーツの”あるべき”という、ある種の先入観がありません。

その先入観の無さゆえに、型破りな個性が発揮され、今のナポリ的なスーツに繋がっているわけです。

今日特に日本でイタリアンと称される場合には、この南イタリアで育まれた特徴を指す事が多いです。

ナポリを含めイタリアのスーツブランドやサルトリアを全部知ってたら達人!至高のイタリアブランド・最高峰サルト29選!にまとめていますので、ぜひご覧ください!

ナポリ仕立ての特徴


(出典:http://kiton.co.jp/brand_philosophy/)
さて、本題でもある具体的なナポリ仕立ての中身についてご紹介していきます。

ジャケット

スーツの顔ともいえるジャケットのラペルは太めになっています。

そのラベルはもちろん、各所にハンドステッチ(ピックステッチや星ステッチとも呼称)を入れるのも特徴の一つでしょう。

ただし、現在は手縫い風にできるミシンでステッチを入れている事が多く、そのミシンをAmerican Machine and Foundry社が製造していることから、AMFステッチと呼ばれることが多いです。

もちろんハンドメイドのフルオーダーであれば、今でもハンドステッチが入るでしょう。

さて次に肩周りです。

前述の通り、暖かい気候に合わせて堅苦しくない軽やかな着心地を狙っているため、基本的に肩パッドは入れません

アイロンワークで生地を曲げ、身体に沿わせるように仕立てることで、撫で肩でリラックスした印象のスーツが出来上がるわけです。

また、身体に沿って動きやすい作りにするため、アームホールは小さめ、且つそら豆型に作られています。

アームホールを小さくしたら、脇が窮屈で動きづらいのでは?と思われがちですが、実はアームホールが大き過ぎても動きづらいんですね。


(出典:https://www.big-vision.co.jp/news/detail.php?id=21617)
ビッグヴィジョンで紹介されているこちらの画像が非常にわかりやすいでしょう。

要するにアームホールが身体に対して大き過ぎると、腕の稼働が胴体の部分にまで影響を与えてしまうということ。

逆にアームホールを小さくすることで、袖の稼働と胴体を独立させることができ、腕を上げた際にもキレイなシルエットを保つことができます。

とはいえ、ただ単にアームホールを小さくしてしまうと窮屈になるのも事実です。


(出典:http://raffaniello.blog91.fc2.com/blog-entry-200.html)
画像は、まさにそら豆型のアームホールですが、そら豆型にすることで、肩の前方に適度なゆとりを持たせています。

実はこのそら豆型のアームホールは、パターンを起こす際はもちろん、クセどりや肩プレスなど高い技術が求められる為、誰でも作れるものではありません。

形をちょっと変えるだけのように感じてしまいますが、そこにはナポリの職人の技術が詰まっているわけですね。

さらに、この小さなアームホールに対して、アームホールの大きさよりも長めの生地を、縮ませながら縫い付けます。

いわゆる「いせこみ」ですね。

長めの生地をいせこんでギャザーにした肩をマニカカミーチャと呼びます。(シャツ袖、雨降り袖とも呼称)


(出典:https://www.imn.jp/post/108057194778)
見た目としては、こんな感じになります。

アームはジャケット唯一の可動域ですので、このいせこみや、アームホールの形が、着心地に大きな影響を与えます。

あとは、カジュアルジャケットの場合には外せないポイントのパッチポケット


見た目としては、こんなポケットです。

さすがにビジネス用のスーツに見られることはありませんが、こちらもナポリ仕立てのジャケットに多いディテールです。

パンツ

さて次にパンツ、つまりスラックスについてです。

ジャケットと比べると軽視されがちですが、パンツ専門の職人が作ったものは、第2の皮膚とも言われる身体へのフィットが体感できます。

そんなパンツですが、イギリスとイタリアだと位置づけが異なり、その作りにも違いがあります。

イギリスはジャケットを脱がないことを前提にしている為、パンツはジャケットとの調和で作られます。

一方、イタリアはジャケットを脱いで、シャツとパンツになってもカッコいい姿を目指している為、尻のラインと膝の位置が上がり気味のシルエットになっています。

さらに、熟練のパンツ職人は、生地の裁断時点から人間の関節に沿うように立体を想定して作っていきます。

人間の脚はモモが前後に動き、膝から下が更に前後に動く構造になっている為、その動きを計算にいれるとパンツは自ずとS字を描きます


このように人間の身体の形に合わせてS字に作られたパンツは、どう平置きにしてもシワが寄る為、アイロンがかけにくいのも特徴です。

しかし、ベルト部分を広げて軽く振ると、しっかり人間の身体の形になりますし、実際に履くと第2の皮膚と呼ぶに相応しい最高の履き心地を生み出します。

パンツの裾についてもナポリ特有の仕立てがあり、それがダブルのモーニングカットです。

モーニングカットといえば、モーニングコートやタキシード用の裾として用いられるのが一般的で、フォーマル仕様のため裾はシングルなのが一般的です。

裾の前より後ろの方を長くする仕様なので、足を長く見せることができるメリットがあるので、フォーマルでないダブルの裾でもやってしまえ!と出来てしまうのがナポリの技術。

まぁこんな要望、イタリアでも少ないようで、できる職人も限られるようですが・・・

ちなみに日本のテーラーでもダブルのモーニングカットを行っているところもあるようです。

その他の特徴

この他にもナポリ仕立ては特筆すべきポイントがまだまだあります。

たとえば、仮縫い工程が何度もあること。

これはイギリスのビスポークでも2回程度ありますが、本場のナポリ仕立てでは納得いくまで何度も行います。

そして採寸や仮縫い時にかなり身体を触られます

これは採寸結果を数字に起こすだけでは分からない身体的特徴を把握するためだと言います。

日本のオーダー、特にパターンオーダーだと簡易的な採寸も少なくないので、日本人だと違和感を覚える方が多いかもしれませんね。

最後に最も重要な特徴として挙げたいのが手縫いだと言うこと。

もちろん既製品なども販売していて、有名ブランド化してしまっているものはミシンを使うこともあるでしょう。

しかし、基本的にサルトではミシンを使わずに全て手縫いで仕上げます。

だからこそ職人の癖がモロに出ますし、それぞれのサルトの味が出るんです。

とはいえ手縫いと聞いても、手間がかかっているという自己満以外に何かメリットがあるのか見えづらいですよね。

実は高い技術力のある職人に仕立てられたジャケットは縫い目が甘く(緩く)なっています。

キチキチとした日本人的感覚だと、しっかりと縫われた物の方が良く感じてしまうので、ミシンの方が出来が良く、且つ手間賃も掛からないため、ベターだと考えてしまいがちです。

しかし、ミシン縫いは生地をビクとも動かない位置に固定しているとも言え、絶えず動く人間の身体に対しては柔軟性に欠けます。

一方で手縫いはその縫い目が柔らかさ故に、生地が遊ぶ余裕があるわけです。

この違いは下ろしたてには分かりづらいですが、手縫いだと時間と共に身体にフィットした位置に生地が収まっていくため、着心地に大きな差が出てきます。

手縫いでオーダーしたという自己満だけでない、明確なメリットがあるわけですね。

本場ナポリが持つ最高の着心地を生み出す秘技

もはや着る側が知る必要は全くありませんが(笑)、興味のある方向けに、ナポリ仕立てで受け継がれる秘技を一つだけご紹介します。

まずは襟についてです。

テーラーはもちろん、スーツブランドショップでも、仕立てにこだわり手間暇をかけているところは、一枚襟を採用していますよね。

アイロンワークにより襟の生地を首に沿うように湾曲させて作る一枚襟は、襟が首から離れず、スーツの重さを分散する着ていて疲れにくいジャケットを生み出します。

これでも充分いい仕立てなのですが、ナポリの仕立ては、更に一歩踏み込んだ作りをしています。


まず、生地の段階で長方形が扇型になるようにアイロンワークでクセづけし、その扇型に逆らう形で襟を裁断します。

アイロンワークで無理やり曲げた分、戻ろうとする力が働き、首に吸い付く仕上がりになります。

原理を語るのは簡単ですが、曲げた生地を立体を予測して裁断するのは非常に難易度が高い作業になります。

こうした技術に支えられ、撫で肩で襟が首から離れてしまいがちな方にもバッチリ合ったジャケットが仕上がるわけですね。

日本でナポリ仕立てを味わうには


日本にいる以上、ナポリの既成品ブランドを購入するという手段が最も一般的かつ現実的かと思います。

Kiton(キートン)やCesare Attolini(チェザレアットリーニ)、Rubinacci(ルビナッチ)、ISAIA(イザイア)、DALCUORE(ダルクオーレ)、De Petrillo(デ・ペトリロ)あたりのブランドであれば、都内の大手百貨店で購入できます。

その他、日本のテーラー経由でナポリを味わうことができる場合もあります。

たとえば新宿、銀座、虎ノ門に店舗を構えるZerbinoではPRINCIPE D’ ELEGANZA(プリンチペ ディ エレガンツァ)のスーツを仕立てることができます。

汐留にあるアンニ・セッサンタは、イタリアの様々なサルトのオーダーができ、Sartoria Panico(サルトリア・パニコ)、Sartoria Caracciolo(サルトリア・カラッチオーロ)、Sartoria Piccirillo(サルトリア・ピッチリーロ)、Sartoria Borbonica(サルトリア・ボルボニカ)あたりのスーツを仕立てることができます。

既成品にせよオーダーにせよ価格は20万以上がざらですが、極上の着心地を約束してくれるでしょう。

今回は、王様の仕立て屋で学べるナポリ仕立てに焦点を当ててご紹介しました。

また機を見て今後はイギリスのサヴィル・ロウのご紹介等もしてみたいと思います。