あなたにゼニアは不要です。本当にいい生地の考察と選択ガイド


「え、スーツ・ジャケット生地最高峰はゼニアでしょ?何言ってんのコイツ?」そんな声も聞こえてきそうなタイトルですね(笑)

逆に聞きましょう。最高峰ってなんですか?価格でしょうか?ブランド力でしょうか?光沢感でしょうか?

では、最高峰のイタリアのサルトは、なぜイギリス生地を勧めるのでしょうか。そっちの方が安くて、商売になるから?いやいや、イギリス生地だって高いですよ。場合によってはゼニア以上に。

最高峰ってなんなんでしょうね。

では、もう一つ聞かせてください。仮にゼニアが何かしらで最高峰だとして、それ、あなたに必要ですか?

そういうことです。

たしかにゼニアは、素晴らしい生地だと思います。高級感もありますし、柔らかいし、「俺ゼニア着てるんだぜ~」という満足感もあるでしょう。

けれど、それがあなたに必要なものかは別の話。

目次

ニーズに応じて異なる「本当にいい生地」

さて、先程の最高峰のイタリアのサルトの話に戻しましょう。職人はイギリス生地を好むことが多いですが、それはイギリスに多いガッシリとした生地の方が、自身の技術に応えてくれ、生地の時よりもスーツになった姿の方が良さが際立つからです。

これは、いわゆる「仕立て映えする」というもの。もちろんイタリア生地にもガッシリとしたものはありますが、多くは柔らかく色気があり、テロテロとしています。お国柄ですね。

こうした柔らかい生地は、糸も細く、生地が非常に繊細です。その分、非常に高級感のある光沢感があり、「見るからに高い」スーツが仕上がります。

察しの良い方はお気づきかもしれませんが、ゼニアはまさにこの部類。エグゼ層や大多数を相手に壇上でプレゼンテーションを行う方等にこそオススメできる生地なんですね。逆にクライアントと日々密接に接し、親近感を持ってもらうことが求められる場合等には、あまり向いていないと言えるでしょう。

特にトロフェオ以上のラインは、非常に高額にはなるものの、クローゼットの中ですら他の生地とは圧倒的に異なる光沢感を放ちます。たしかに、ゼニアの中にもトラベラーやクールエフェクト、エレクタ等のように繊細さをそこまで追及していないラインはありますが、いずれにせよ日常遣いで長く付き合っていく1着とは言えません。

ここまで光沢感のあるウールとしてゼニアを挙げましたが、他生地ブランドで細く繊細な生地でも同様。さらに言えば、シルク混紡で光沢感を出しているものも同様です。こうしたものはご自身の相対するクライアントや上司、同僚等を踏まえ、判断が必要です。

めんどくさく感じるかもしれませんが、ビジネスシーンでの服は原則、相手本位です。自分本位で個性を主張する私服とは大きく違います。

ですので、ファッションブランド等で「夏はリネンで!シワも味なんです!」といったところで、クライアントがシワを良しとしないのであれば、しっかりとシワを伸ばすか、そもそも着用すべきではありません。

ただし、これも着用シーンに応じて「本当にいい生地」は変わるという話。暖かくなってきたら休日やクライアントと会わない日等は、リネンで季節を感じるのは、決して悪いことではありません。私もリネンは好きです。

じゃあ、どうやって生地を選んだいいの?

基本的に生地ブランド名にこだわるべきではありません

そうは言われても、既製品でも内ポケットに生地ブランドタグがついていることが多く、どうしても目がいってしまいますよね。そして多くの場合、高級既製スーツにはゼニアが使われています。

これが、ゼニア最高!ゼニア!ゼニア!ゼニア!のゼニアチンパンを生み出す原因です。かく言う私も以前はその一人でした(笑)

けれども、他の生地に目を向けてみると素晴らしいものが多く、いまやゼニアに対する興味がほぼ無い程です。面白いものですね。

たしかに既製品の場合には、生地のランクに応じて、クセどりや縫製のレベルが高くなっている場合もあります。そのため、着心地を良くするには、生地ランクを上げることが必須となってしまい、ゼニアを選ばざるを得ないケースもあるでしょう。

しかし、オーダーする場合は別の話。俺評価。 で「イチオシ」や「良し」としているテーラーであれば、あなたにとって本当にいい生地で、仕立ててくれます。

というか、「イチオシ」テーラーの場合、極端な話ポリエステル生地でも、「不要」評価のテーラーのゼニア生地を用いたスーツより着心地が良くなるぐらいです。なので、心配せず自分に合った生地を選びましょう。

選び方としては、まずは「初心者のうちは自分で選ばない。彼女や奥様にも選ばせない」ことを押さえましょう。

初心者が膨大な生地を前にすると、どうしても光沢感のあるもの、青みが強く発色の良いもの、派手な柄のものを選び勝ちです。特に女性に選んでもらう場合には、オシャレさ故にこの傾向が強くなります。

ビジネス利用を目的としている場合は特にですが、これが失敗のもと。生地の一次選定は、テーラーにお願いしましょう。その際、利用シーンや想定着用頻度、与えたい印象、会社の服装に関する厳しさあたりを明確に伝えることをお忘れなく。

一次選定時は3~5つ程の生地を並べてもらい、それぞれの生地を解説してもらいましょう。その中に気に入ったものがあれば決定。なければ何度でも他の生地をオススメしてもらいましょう。

ある程度オーダーに慣れてきてからは、一周回ってブランド毎の特徴が気になる場合もあるかと思います。雑誌でもよく取り上げられていますね。

というわけで今回は最後に、生地ブランドを大まかに4分類して纏めました。

生地ブランドの大分類

繰り返しますが、ブランドだから選ぶというは愚の骨頂です。特徴を掴んだ上で、用途に合致し、気に入った場合にのみ選択することをオススメします。

ミーハー系


ミーハー好みというか、チンパンや至上主義者が生まれやすいブランドです。私も多分に漏れずオーダー経験があります(笑)

利用シーンを見極めた上で選ぶには非常に優れたブランドなので、そこはお忘れなく。

  • ゼニア(Zegna)【伊】
  • ロロピアーナ(Loro piana)【伊】

ロロピアーナに関しては、光沢感のあるものだけでなく、私服用となるであろうジャケット生地でも発色豊かで、美しい力作が多いように個人的には思います。

以下、私が過去にオーダーした歴史ですが、こうして見るとチンパンみが凄いです。
【参考】ゼニア トロフェオのスーツレビュー
【参考】ゼニア トロピカルのスーツレビュー
【参考】ゼニア エレクタのスーツレビュー
【参考】ゼニア カシミア100%のコートレビュー
【参考】ロロピアーナ ドリームツイードのジャケットレビュー

●●といえば系


どの生地ブランドにも代表作はありますが、種別単位で代表作を輩出しているブランドもあります。

たとえば

  • アイリッシュリネンといえば・・・スペンスブライソン(Spence bryson)【英】
  • ソラーロといえば・・・スミスウーレンズ(Smith woollens)【英】
  • フレスコといえば・・・マーチンソン(Martin&Sons)【英】
  • フランネルといえば・・・フォックスブラザーズ(Fox brothers)【英】
  • ツイードといえば・・・ハリスツイード(Harris tweed)【英】
  • コーデュロイといえば・・・ブリスベンモス(Brisbane Moss)【英】

あたりが挙げられます。

たとえば、スペンスブライソンのアイリッシュリネンは、昨今のリネンと違い「清涼感がある~」なんてものではありません。夏に着たら汗だく不可避です。それくらいガッシリとしたリネンだからこそ、着こむほどに味が出る。ビジネス向けではない玄人好みの生地です。

「ソラーロ」は、光に当て方によって見え方の変わる玉虫色の生地。基本的にはブラウン(というかベージュ?)に見えるため、こちらも玄人好みでビジネス向きではありません。ちなみにファッション誌等でソラーロという名称は、たびたび登場しますが、正確には「ソラーロ」というのは、スミスウーレンズが商標を有しているため、その他ブランドが提供している同種の生地は「サンクロス」と呼ぶのが適切です。

「フレスコ」はマーチンソンが開発した生地です。通常よりも糸を強く撚った「強撚糸」2本をさらに撚って1本にした2PLYや、3本を撚って1本にした3PLY等があります。かなりの糸が撚り合わさっているので、当然耐久性があり、シワになりづらい上に、空気をよく通すため、春夏向きのです。が、撚った結果重量もあるので、日本の夏にはしんどい場合も・・・。

フランネル、ツイード、コーデュロイあたりは一般的にも、よく聞かれる素材なので、ここで詳細記述しませんが、上記ブランドあたりが有名です。

【参考】スペンスブライソンのジャケットレビュー
【参考】フォックスブラザーズのジャケットレビュー

分かってる感が出る系


これこそ、まさに「分かってる感が出る」ことを理由に選んじゃダメですよ(笑)いずれもゼニアやロロピアーナには知名度が劣るかもしれませんが、本当に素晴らしい生地を提供しています。

ちなみに俺評価。で「不要」としたテーラーで、これらの生地ブランドを利用するのは避けた方がよいでしょう。まず間違いなく本来の味が出ません。仕立てが悪いとジャケットの重みが分散されず、肩にのしかかるので、「重・・・」という感想にしかならない危険性すらあります。

生地ブランドもかなりざっくり分けると、自社で生地を織っている機屋(=ミル)と、機屋から買い付け、卸す商社(=マーチャント)の2種類あります。
※ランバンやダンヒルのようなライセンス形態のブランドもありますが、ここでは触れません。

さて、ミル系のブランドをざっとリストアップすると・・・

  • ハーディーミニス(Hardy Minnis)【英】
  • テーラーロッジ(Taylor & Lodge)【英】
  • ウィリアム ハルステッド(William Halstead)【英】
  • 葛利毛織【日】
  • 御幸毛織【日】の傑作ナポレナ(Napolena)ライン

あたりです。ぶっちゃけ挙げだせば果てしないのですが、一旦この辺で。

ハーディーミニスは、英国王室御用達でもある名門生地ブランド。イタリアの名門サルトであるルビナッチも昔から贔屓にしているそうです。

テーラーロッジは、効率を求めず、品質重視。特に代表作であるラムズゴールデンベールというラインは、糸の紡績から最高品質を追求しています。Dittosの水落氏がブログで良く紹介されているように思います。

ウィリアム ハルステッドは、上質なウールやモヘア等の天然繊維のみにこだわる生地ブランドです。見た目の派手さはありませんが、究極の「普通」感があり、個人的には好きです。

葛利毛織も同様に、仕上がった生地に風合いの出る旧式の低速織機を敢えて活用する等、品質重視。ちなみに同社従業員の上村直也氏が、自身の試行錯誤をTwitterにアップしています。こだわりの強さが垣間見れて個人的に大好きです。

御幸毛織は、ナポレナという傑作ラインがあります。低速織機だけでなく、天然石けんと軟水の活用にもこだわっています。

【参考】葛利毛織のジャケットレビュー
【参考】テーラーロッジのジャケットレビュー

一方、マーチャントについては、その審美眼に信頼が寄せられ、成り立っています。いずれも名門テーラーで扱われることが多く、作り手から見ても素晴らしい生地と認識されています。

  • フィンテックス オブ ロンドン(Fintex of London)【英】
  • ホーランドシェリー(Holland & Sherry)【英】
  • ハリソンズ オブ エジンバラ(Harrisons of Edinburgh)【英】
  • ダグデールブラザーズ(Dugdale Brothers)【英】
  • ドラッパーズ(Drapers)【伊】
  • カチョッポリ(Caccioppoli)【伊】
  • アリストン(Ariston)【伊】
  • スキャバル(SCABAL)【白】のビッグベン等のヘビーウェイトライン
  • ドーメル(Dormeuil)【仏】のSportex / Super brio / TONIK等の往年の名作

フィンテックスオブロンドンは、1881年創業の老舗最高級生地ブランド。流行とは無縁とも言っていいラインナップでありながら、欧州の王侯貴族に愛されるとされます。ちなみに日本では「フィンテックスは生地のロールスロイスと呼ばれる」と言われがちですが、英語で検索しても全く出てこないので、真偽の程は定かではありません(笑)

ホーランドシェリーについては、1836年創業で、イギリスのサヴィルロウはもちろん、イタリアの名門サルトがこぞって利用するほどの信頼が置かれた生地ブランド。光沢感よりもガッシリした、職人の技術との組み合わせで、良さが引き立つ生地を提供しています。

ハリソンズ オブ エジンバラは、これまた1863年創業の老舗高級生地ブランド。真っ赤なバンチブックが目立つので、テーラーに並ぶバンチブックの中でも一際目立つ存在。こちらも英国らしい打ち込みのしっかりしたガッシリ生地です。

ダグデールブラザーズは、1896年創業で、クラシックでありながら現代的なニーズにも対応した老舗高級生地ブランドです。まぁ言っても素人目で見ると、正直、前述3ブランドとの違いは分かりません(笑)

ドラッパーズは、ここまで登場の少なかったイタリアの生地ブランドです。が、イタリアらしい光沢感よりも、むしろイギリスらしいガッシリさがあるのが特徴。こちらもサルトの職人に好まれるタイプの生地ですね。

カチョッポリは、これまたイタリアの生地ブランド。商社らしく扱う生地はバラエティに富み、ドラッパーズよりもイタリアらしい鮮やかな色柄が印象的です。元々はナポリで地域のサルトに少量生産で提供していたこともあり、サルトに好まれるブランドでもあります。

アリストンは、バンチブックを置く店にノルマを課すことでも有名な生地ブランド。取扱いのあるテーラーは、「ちゃんと売ってるからこそアリストンを置けている」とアピールすることが多いですが、ぶっちゃけいろんなテーラーが同じこと書いているので、消費者からするとピンときません(笑)生地としては、発色が鮮やかで光沢も滑らか。まさにオシャレ着となる生地かと思います。

スキャバルは、ベルギーの生地ブランド(ベルギーって漢字一文字だと白なんですね)で、オバマ前大統領等も着用していたことで知られます。日本では伊藤忠が子会社のスキャバルジャパンを通じ展開。様々なラインを展開していますが、せっかくならビッグベン等のヘビーウェイトのラインをオススメしたいです。

ドーメルは、フランスの生地ブランド。生地の製造過程を開示し、トレーサビリティを担保する等、サプライチェーン上の水利用や人権問題等が課題視されるアパレル業界においても先進的な取り組みを進めています。実は、私が初めて「高級スーツ生地ってカッコいい」と認識したのもこのドーメルのアマデウス(AMADEUS)というラインでした。が、せっかくドーメルで仕立てるのであれば、往年の名作スポーテックス(Sportex)、トニック(TONIK)、スーパーブリオ(Super Brio)あたりをオススメしたいです。

馬鹿にしちゃいけない系


最後にめちゃくちゃしょうもないですが、安価な既製品で使われているからって軽視されがちだけど、本来馬鹿にできない凄腕生地ブランドをば。

  • カノニコ(CANONICO)【伊】
  • レダ(REDA)【伊】

・・・やはり、という感じでしょうか。

スーツカンパニーや百貨店に並ぶ既製品の最もお手頃なラインで使われていることも多い、この2ブランドは軽視されがち。某既製品ブランドの店員は「うちはカノニコみたいにどこでも使っているような生地ではなく、ゼニアの高級ライン生地に拘ってます」と仰ってました。愚の骨頂ですね。

カノニコについては、取り扱っている生地の幅も広く、既製品でも比較的お手頃に使いやすい生地から、4PLYや6PLY等のガッシリした非常に高価なラインまで取り扱っています。いずれも高い品質で仕上がっているのも特徴でしょう。ちなみに同社が織った生地を、前述のドラッパーズに提供していることもあり、その品質の高さが伺えます。

レダについても同様です。比較的安価なラインから、マイヨールという高級ラインまで取り扱っており、ブランド名だけで軽視できるものでもありません。

・・・こんなところでしょうか。ぜひオーダーや既製品購入の際には参考にしてみてください!

今後も、実際に私が袖を通した結果や、仕立てた結果、そして店員と話した経験などを、感覚論に終始せず論理と組み合わせて整理していきますので、少しでも興味を持っていただけたら、是非Feedlyの登録Twitterのフォローnoteの応援を宜しくお願いします!